梅香


私は見ている、ずっと昔から。
私の想いは、光になり風になり水になりあふれ出す。
もはや人からは忘れられた存在。
それでも私は想う。
全てのものを、花を樹を生き物たちを。

梅の木の精の物語。
ひと時、私は彼女の中に引き寄せられ一体となる。
遠い昔、巫女と呼ばれた人々の口を借りて伝えた想いを。
今は彼女の存在が伝えてくれる。
私は想う、祈るそして見つめ続ける。

紅天女、舞台の上で不思議な感覚を感じる。
私が私でないような。
私は阿古夜、そして紅天女。
演じているのは私のはずなのに。
そんな時、ふと梅の香を感じることがある。
ほんの一瞬の出来事。
他の役では感じない不思議な想い。
切なく、悲しい、そして慈愛に満ちた想い。
もしかしたら私は舞台の上にいないのかもしれない。
それでもいい、私の想いが伝われば。
あの人に。そしてすべての人に。あの人を愛する私の想いが。



<Fin>