花の宵 1



「速水さん、お花見に行きませんか?」

「花見か・・丁度今が見頃だな。だが君はむしろ花より団子じゃないのか?」

「もうっ、すぐにそうやってからかうんだから。
私を食欲の権化だとでも思ってるんですか!?」

「違うのか?」

「(むっ)これでも私、“春の女神”アルディスを演じた女優なんですけど」

「ああ、確かにあのアルディス姫は美しかった。
このちびちゃんが演じていたとはとうてい思えなかったよ」

「どうせまた永遠に舞台が終わらなければ良かったとか言うんでしょ」

「そうだな、いつまでも見ていたいほど可憐だった。
君の演じる女神様も天女様も、息を呑むほどに素晴らしい。
だがそれ以上に俺は・・」

「俺は?」

「舞台を下りた北島マヤに惹かれているよ。
他の誰でもない、俺だけを見つめてくれる君自身にどうしようもなく・・ね」

「!・・・どっ・・・どうしてそういうセリフをさらっと言えるんですかっ・・!」

「どうしてと言われても本当のことだからな。
俺にとって君以上に美しく、光り輝くものなど存在しない」

「も・・もうっわかりましたっ!
速水さんがいかに口説き上手で女たらしかってことはっっ!」

「くっくっくっ・・なんだ、今頃わかったのか?
もっとも俺の場合、君限定なんだがな、ちびちゃん?」



<Fin>