花の宵 4


「ねぇ、速水さん、露店って見ているだけで楽しくなりますね!」

「見ているだけでは済まないんだろう、ちびちゃんは。
両手に持っているその袋の数はなんだ?」

「いいじゃないですか、せっかくのお祭りなんだから。
今日は懐の心配も要らないし♪」

「俺は君にとって都合の良い財布らしいな。
どうせならここに売っている物全てを買い上げた方が早いんじゃないか?」

「(むぅっ)お財布はそんな皮肉な物言いはしません!
どうしてそう一言余計なんですか」

「君といると、どうも口が滑るようでな」

「ワックスを塗りたての廊下みたいですよねっ!
少しは量を加減してください!
・・あ・・っ」

「うん?」

「リンゴ飴が売ってるなと思って・・最近はあまり見なかったのに」

「欲しいのか?」

「いえ、食べきれないと思うし、いらないです・・」

「どうした、歯切れが悪いぞ。君らしくない。」

「ちょっと昔を思い出しちゃって。
・・私ね、小さい頃に凄く欲しかったんですよ、りんご飴。
ツヤツヤしてて、おいしそうだったから。
でも母さんが、食べきれないからダメだって」

「・・・・・」

「だけど駄々をこねる私に負けて、一度だけ買ってくれたことがあるんです。
もう嬉しくて、嬉しくて・・
でもね、子供にはやっぱり量が多すぎて、全部は食べられなかったんですよ。
母さんはそら見たことか、って呆れてたけど」

「マヤ」

「母さんにとっては演劇もりんご飴みたいなものだったんでしょうね。
派手な色合いでおいしそうだけど、私にはとても食べきれない・・
食べてみたところで見かけほど味の良いものでもない。
だから取り上げようとした。
母なりの思いやりだったんでしょう。

確かに一人では・・とても食べきれなかったと思います。
だけど私には月影先生や劇団の皆、そして紫のバラの人、速水さんがいてくれた」

「ああ・・」

「母さんにもね、きっと、一緒にりんご飴を食べてくれる人が必要だったんです。
でも私はそれに気づかなかった」

「マヤ、それは・・」

「悔やんでいるわけではないんです。
今になってようやく見えることがある・・そういうことなんです。

ねぇ、速水さん。
私・・速水さんといろんな話をしたいんです。
私の考えていること、感じていること・・何でも知ってほしい。
だから、受けとめてもらえますか?」

「・・俺で・・いいのか?・・」

「速水さんだから、いいんです」

「・・ありがとう、マヤ。
君がそれを赦してくれるなら、俺は強くなろう。
自分勝手な引けめで、君から目を逸らすことがないように」

「ええ、私を見ていてください、速水さん。
私も・・あなたを見ていますから」



<Fin>